この空を羽ばたく鳥のように。
愛おしい気持ちが込み上げ、ギュッとまぶたを閉じる。
そうでもしなきゃ、泣いてしまいそうだ。
そんな私のかたわらで、みどり姉さまはふと思い出したようにつぶやいた。
「そういえば、養子に来てから初めて帰省する運びになったおり、喜代美さんね、とても喜んでたわ」
みどり姉さまの言葉にまぶたを開くと、私もその時のことを思い返す。
「久しぶりに実家に帰れるから……?」
そう訊ねると、「いいえ、違うわ」と 姉さまはゆっくりかぶりを振る。
「さよりが初めて、自分に笑いかけてくれたって。
嬉しくてしかたなくて、喜代美さん私にそう打ち明けてくれたの。
だから “帰省させることを進言したのも、さよりなのよ”って教えたら、喜代美さんとても感激してた。
お前が気遣ってくれたことが、何より嬉しかったのよ」
そうおっしゃって、ふふっと笑うもんだから、照れて顔が熱くなる。
「あれからかしらね……。喜代美さんが声をたてて笑ったり、冗談を言うようになったのは。
お前ともどんどん打ち解けていって。
そんな姿を見て、きっと父上は、喜代美さんならさよりの心を解きほぐしてくれると信じて、何もおっしゃらなかったのだと感じたわ。
頑(かたく)なだったさよりの心を喜代美さんがほぐしてくれて、喜代美さんがありのままの自分に戻れる安らぎを、さよりが与えていたの。
ふたりの仲を見て、父上も母上も私も、とても安心したのよ。“ああ、これでもう大丈夫" ―――って」
そこまで話したあと、みどり姉さまは表情を曇らせた。
「だから、つい言ってしまったの。
まさか事情をご存じのはずの八郎どのが、お前にあんなに近づくと思わなかったから」
『八郎どのを好きにならないで』。
「さよりがすでに八郎どのに心を寄せてしまったとしても、私は喜代美さんのひたむきな心を応援したかった。
だって見てると痛いほど伝わってくるんだもの。
喜代美さんは何よりお前を大切にしてる」
――――うん。わかってるよ。
さっき やっと気づいたの。
喜代美の本当の心を。
最初から、何ひとつ偽りなんてなかった。
すべてが喜代美の本心だった。
私の目が雲っていたから、だからそれに気づけなかっただけ。
だから 失ってしまったの。
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