この空を羽ばたく鳥のように。




 熱い感情が、みるみると沸き上がる。

 後悔。正直になれなかった自分に対する怒り。悲しみ。
 そして 愛しくて愛しくてたまらない喜代美への恋慕。


 それが抑えきれない。


 激しい思いは涙となってあふれ、とめどなく頬をつたう。



 「……うっ、く」



 声を押し殺そうとしても 無理。

 のどに詰まっていたものを吐き出すかのように、苦しげな嗚咽が漏れる。

 それに気づいた姉さまは、何も言わずに背中をさすってくれた。
 その温かい手は、私の苦衷を解放させるかのように、優しく背中を押してくれる。



 「姉さま……!わたしっ、私、頷けなかったの!
 喜代美に、夫婦として共に家を守り立ててほしいと言われて頷けなかった……!

 私が好きなのは喜代美なのに、本当は頷きたかったのに、素直になれなかったの……!!」

 「そう……」



 みどり姉さまは頷くと、そのあとは何も言わずに、ただ背中をさすり続け慰めてくれた。


 自分のしてしまった行為を今さら悔いても、もうどうにもならない。


 あのとき 頷くだけでよかった。


 自分の気持ちに正直になって、
 疑うことなく喜代美を信じていれば――――。










 ※嗚咽(おえつ)……声をつまらせて泣くこと。むせび泣き。

 ※苦衷(くちゅう)……苦しい心の中。


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