この空を羽ばたく鳥のように。
「ほう……未熟な心とな」
「はい」
ふうむ、と父上は唸るような深い息を吐いた。
そうして穏やかな声音でおっしゃる。
「喜代美。そなたは己の心が未熟だと申すが、そもそも十全な心の持ち主などおらぬものだぞ」
「は……」
父上のお言葉に喜代美は顔を上げ、不思議そうな声を漏らす。
「人は皆 不完全じゃ。だからこそ己に足りないものを求めて誰かを頼り欲するものなのじゃ。
そうやって、人は支えあい成長してゆくのじゃ。
完璧であってしまっては、人はそれ以上学ぶことはせぬ。成長することもない。
つまりは己の心が未熟だと気づいたそなたは、見所があると言うことだ。
そなたの心が未熟なのは、まだまだ成長する証じゃよ」
父上のお言葉は、襖の外で耳を澄ます私の心を強く打った。
『人は完璧になれないからこそ、補える相手を求めるもの』。
それはたとえば生まれ持った性質であったり、心の隙間であったり。
それによって相手は頼れる同僚や友人であったり、心安らげる恋人であったりするのだろう。
私は喜代美を嫌っていた。
それは喜代美が、私にないものすべてを持っていると思ったから。
けど そうじゃない。
私はずっと、喜代美を求めていたんだ。
私にないものを持っている喜代美が羨ましくて、それが欲しくて。
そして自分でも気づかずに、そんな彼に心惹かれていた。
私は 喜代美になりたかった。
けれど喜代美を見つめるにつれ、彼も十全でないのだと気づく。
私はそんな彼の心に触れ、次第に心を寄せていった。
不器用で一生懸命な喜代美が愛しく思えてならなかった。
いま 分かった。
人は、不完全だからこそ いとおしいのだ。
※十全……少しの欠点もないこと。完全であること。
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