この空を羽ばたく鳥のように。
* 四 *
幕府が、なくなった。
十五代将軍の座に着いた徳川慶喜公は、慶応三年十月十四日、約二百六十年の長きにわたり委任されていた政権を朝廷に返上した。
世にいう『大政奉還』である。
それにより徳川幕府は消滅し、徳川家は他の藩と同じ一介の大名となった。
それは討幕を目論む薩長との武力衝突を避けるための慶喜公の苦肉の策だったが、幕府がなくなるなど想像もしなかった他の大名や幕臣、そして市井の人々のあいだには驚きと衝撃が走った。
そして誰もが、これからの日本のありように不安を抱かずにはいられなかった。
そして。
会津盆地に、雪が降る。
磐梯山を、あたりの山並を、
そして赤瓦のお城も、
城下町の甍も、
すべてが白く覆われてゆく。
幸せだった日々も、
穏やかだった暮らしも、
すべてが冷たく包まれる。
長い長い冬。
慶応四年の年が明けてゆく―――――。
※委任……ゆだねまかせること。
※一介……取るに足りない。ただの。
※甍……かわらぶきの屋根の頂上の部分。
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