この空を羽ばたく鳥のように。
喜代美は変わってしまった。
いや、他の人には変わらないのだ。
いつものように穏やかな笑顔と柔軟な物腰で接している。
(ただ 私にだけ――――)
喜代美は笑いかけてくれなくなった。
言葉も態度も冷たくなった。
話しかければ無視などせず答えてくれるけど、その態度はあくまで素っ気ない。
まるで自分を裏切った私を無言で責めているかのような、
それとも自分にとって意味をなさなくなった私に興味が失せたような、そんな態度。
喜代美は私のことなど、もうどうでもよくなってしまったのだろうか。
失意の表情そのままに、もう一度障子を開けて庭先を見ると、つがいの尉鶲は人の存在に驚き、羽音をたてて飛び立っていった。
雪雲に覆われた灰色の空に羽ばたくその姿を仰ぎ見ながら、なんとも言えない寂しさと孤独を感じた。
吹き込んでくる冷たい風が、私の心の中までも吹き抜けてゆく。
『ごらんください、さより姉上!今年も尉鶲が庭に来てくれましたよ!』
喜代美の嬉しそうな笑顔が思い浮かぶ。
『ほら、あれがメスですよ!オスとは全く違うでしょう?』
今までだったら、きっと興奮したように目を輝かせて教えてくれた。
そして最後に、必ずこう言ってくれたに違いない。
『来年の冬もまた、こうしてふたりで見れるといいですね』
私が壊した。
私がすべて台無しにした。
喜代美の優しさも。
これから幾重にも交わすはずだった約束も。
くやしくて、悔やみきれなくて空を仰ぐ。
遠く、曇り空の高いところを白鳥が数羽飛んでゆくのが見えた。
――――喜代美は縁側に腰掛け 空を見上げるのをやめた。
あんなに憧憬の対象だった鳥たちにも、目を向けなくなった。
私はそれが、とても悲しかった。
―――たしかにいま世の中は、のんびり鳥など愛でている状況ではない。
わが会津藩は、徳川宗家とともに窮地に追い込まれていた。
とうとう京と大坂間で、旧幕府軍と薩摩長州率いる新政府軍の戦が始まったのだという。
喜代美もきっと、戦に出陣なされただろうお父上と金吾さまの安否が心配でならないのだろう。
※物腰……他人と接するときの態度や言葉遣い。
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