この空を羽ばたく鳥のように。
藩士の方がたのほとんどが、国許会津に戻られたのは、三月も終わりのころ。
その頃には、鳥羽•伏見での戦いの委細が会津城下に広まっていた。
他の藩と同じく財政逼迫していたうえに、この度の京都守護職を務めていたわが藩は、最新の武器を購入するようなお金などあろうはずもなく、武器の調達が困難なまま戦に突入した。
早くから軍制改革し、蘭式に変えるべきだと声をあげる者もいたのだが、
古来からの刀槍に固執し、西洋のものを頑なに拒んでいた因循固陋な藩士が多く、その声が聞き入られることはほぼなかったのだ。
鳥羽•伏見の戦いでは、わが藩は小銃を持つ兵士が少なく、接近戦になるまで戦を観望する有り様だったという。
銃は足軽が持つものと蔑み、無謀ともいえる突貫を繰り返し、勇猛果敢に戦った藩士達だったが、やはり負傷者や戦死者が続出した。
圧倒的な火器の威力に、藩士達は刀や槍の時代は終わったのだと痛感したという。
「ちょっと出かけてきます」
母上にそう声をかけると、私はおたかを伴い外に出た。
南町門を抜け、郭外へと出る。
そして右手側、花畑大通りをゆく。
向かうところは花畑の端。
おさきちゃんの屋敷だ。
――――旧幕府軍の先鋒を務めたわが会津藩は死傷者が続出した。
けれど喜代美の父君と金吾さま、そして負傷した藩士の運搬と看護に当たっていた主水叔父さまはご無事でお戻りになり、私達家族は安堵で胸を撫で下ろした。
おますちゃんの旦那さま、下平さまもなんとかご無事だった。
けれど――――。
おさきちゃんの兄上は、戻ってくることはなかった。
※委細……詳しい事柄や事情。
※逼迫……追いつめられて余裕のない状態になること。
※因循固陋……古い習慣やしきたりに従うだけで改めようとしないうえ、見識がせまく、がんこなこと。
※突貫……ときの声をあげて敵陣に突き進むこと。
※先鋒……戦闘のとき、軍隊の先頭に立って進むもの。さきて。
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