この空を羽ばたく鳥のように。




 「そっ、そりゃそうだけど……っ」



 いとも容易(たやす)く頭を下げ、自分の落ち度を詫びる喜代美に私はうろたえた。



 「私のせいで、津川家の皆さまに片身のせまい思いをさせてしまいました。
 まこと申し訳なく思っております」



 頭を深く下げているから、喜代美がどんな顔をしているのかわからない。
 発する声はいつもと変わらない穏やかなもの。

 私のほうが動揺していた。


 なんで?どうして?

 どうして自分を侮辱(ぶじょく)する仲間を(かば)うような真似するの?

 喜代美は腹が立たないの?

 いくら自分が情けないからって、それを嘲笑う人間は悪くないっていうの?



 くやしさに、また涙が出そうだ。
 何に対してのものなのか、もう自分でもわからないけれど。



 「……姉上」



 顔をあげた喜代美が、少し困ったように瞳を(にじ)ませる。


 瞬きもせずに彼を見つめた。
 瞬きしたら、涙がこぼれ落ちそうだ。


 喜代美はそっと(たもと)から自分の手拭いを取り出し、私に差し出してくれた。



 ――――喜代美は優しい。



 自分を罵る相手にも優しい。

 それが大きな敗北感となって、私の心に(よど)みを作ってゆく。










 ※(ののし)る……非難してどなる。また、口汚く声をあげて悪口をいう。

< 20 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop