この空を羽ばたく鳥のように。
 



「反対に、自ら進んでおふたりの仲を取り持つこともできなかった。

八郎兄のように、自分から身を引く潔(いさぎよ)さもなかった。

それでも私は、あなたが兄のそばにいたいと望むなら、笑って身を引ける男でありたかった。
あなたが幸せなら、私はそれでよかった」



喜代美の真率な言葉に、胸に熱いものが込みあげる。



(ああ……以前にも、喜代美は私にそう言ってくれた)



あの時から、喜代美の心は変わっていなかった。

いつでも私が幸せになることを、一番に望んでくれている。



「八郎兄は出陣の挨拶に参られたおり、想いは偽りだと申しました。

恥じることながら陰で見ていた私は、あなたにそう伝えることで、想いを断ち切ろうとする兄の決意がよく分かりました。

私のためにそうするのだと思うと、身を切られるよりつらかった。

私はおふたりのために何もしなかったのに。

なぜですか……なぜ、兄上もあなたもそんなに私を思い遣(や)るのですか。
なぜあなたは、私のそばで生きてゆこうとするのですか……!」



喜代美は呻くように言って項垂れた。
額から下ろされた手は拳となって、膝を打つ。










※真率(しんそつ)……飾り気がなくて、まじめなこと。



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