この空を羽ばたく鳥のように。




 考えてみれば、私は私の視点からでしか喜代美を見たことがなかった。


 私から見れば、喜代美はすべてを持っていた。


 大きな瞳に長いまつげ。
 鼻筋がスッと通った整った顔立ち。
 おまけにスラリと高い背。

 そんな美しい容貌を持つ 喜代美。


 日新館でも度たび賞賜(しょうし)を受けるほど優秀で、文字を書かせればその筆跡たるや、(すずり)一面を褒賞にいただくほどの腕前だ。

 もちろん私なんか足下にも及ばない。

 そして跡取りとして両親に愛され、大事に大事に育てられている。


 そんなふうに人を惹きつける要素があるから、彼はいつも微笑(わら)っていられるのだと思っていた。


 私の目は、嫉妬で醜く歪んでいた。
 喜代美の立場でものを見たことがなかった。


 喜代美からしてみれば、それはどんなものだったろう。


 まだ母君が恋しいような幼いうちに、他家へ養子に出された喜代美の気持ちは?

 男ばかりの兄弟に囲まれて育ったのに、それを失い姉ばかりの家で戸惑ったのではなかろうか?

 友人だってそうだ。地域が違うから、今まで馴染んでいた『什』の仲間から外され、知らない者ばかりの『什』の中にポンと入れられた。


 そんな中で、喜代美は受け入れてもらえているだろうか。


 このあいだの朋輩のことを考えると、とてもそうとは言いがたい。

 今のところ大ケガして帰ってくるということは、幸いないのだけれど。



 ………喜代美。



 今の喜代美に心から打ち解けられる相手が、はたしているのだろうか………?


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