この空を羽ばたく鳥のように。
 



私はゆっくりと首を振った。



「たとえそうだとしても、私の心の赴く先は八郎さまじゃない。喜代美なの。

あの方もそれをご承知だったから、私に喜代美を託して下されたの」



私には分かっていた。



別れ際に残した八郎さまの言葉は、弟をよろしく頼みますとの想いが込められていた。



私は八郎さまの分まで、喜代美を助け、見守り続けなければいけないんだ。






「約束するわ。私はずっと喜代美のそばにいる。どんなときでも一番の理解者になる。

そして一緒にこの家を守り繋いでゆくわ」



まっすぐ見つめて、決意の強さを声に表す。



喜代美も静かに見つめ返した。



いつのまにか動揺する様子は消えてなくなり、その表情に穏やかな落ち着きを取り戻している。



「兄上から託されたのは、私のほうです……。
八郎兄上は私にあなたを託してゆかれた……」



つぶやいて、今度は私の頬に喜代美の両手が伸びる。



私の瞳をしっかりと捉えて、彼は深い感慨をまなざしに込めた。



「私でも、あなたを幸せにできるのですね」



応えるように、頬に触れる手に自分の両手を重ねて笑う。



「そうよ。私を幸せにできるのは、喜代美だけなの」



喜代美の黒く大きな瞳が艶やかに潤む。


頬にかかる手を離すと、両の手を私の背にまわした。


躊躇のない力で、強く抱きしめる。



「……約束します。八郎兄上の分まで、あなたを幸せにします」



感極まる言葉に、幸せに胸を震わせながら小さく応えた。






「うん……約束よ……」










※感慨(かんがい)……心に深く感じて、しみじみとした思いになること。



< 230 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop