この空を羽ばたく鳥のように。




 いったい どうしたものか。
 喜代美はなかなか帰ってこない。


 早苗さんが来てから、もう半時(1時間)は経っているというのに。

 お茶も三杯目。さすがにもう勧めることはできない。


 やばい。喜代美ネタも尽きてきた。



 (今日はどこか寄ってくるのだろうか)



 くそう。今日に限って遅いとは。
 これでは私の立場がないではないか。



 「早苗さん、ごめんなさいね。今日に限って、喜代美遅いみたいで」

 「いえ、よいのです。喜代美さまもお忙しいですものね……」



 早苗さんは微笑む。けれど来たばかりの時と違って弱々しい。



 (……喜代美め~!どこ行った~!! 早く帰ってこ~い!!
 彼女のせっかくのおしゃれが台無しではないか~~!!)



 心の中で恨み言を唱えながら、この重苦しい空気が早く終わることを願う。

 ――――と。



 「ただいま戻りました」



 待ち望んだ 喜代美の声。



 「帰ってきた!」



 私は早苗さんと顔を見合せて喜んだ。ふたりして、もう腰が浮き立っている。



 (ああ よかった!早苗さんが無駄足にならなくって!!)



 しかし大きく胸を撫で下ろした私の耳に、喜代美を出迎えたであろう母上の驚いた声が響いてきた。



 「まあ……!喜代美さん!? いったい、そのお姿はどうなさったの!?」

 「大事ありません、母上。ご心配なさらないで下さい」



 いつもと変わらない穏やかな喜代美の声。


 けれど私はそのやりとりに、以前の朋輩のことが頭をよぎった。

 嫌な予感がする。



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