この空を羽ばたく鳥のように。
ドキンと鼓動が強く反応する。
地を見つめたままの、彼の言葉を待つ。
「先の禁裏で起きた戦で、長州がわが会津に強い恨みを抱いていることは存じております。
ですがわが殿は、国許に戻られてからも大樹公にならい、新政府に盾突くつもりはないと、恭順の意を示して御自ら謹慎なされたのに、将軍家は許されても、わが藩は許されることはなかった」
わが藩は、会津に憐憫を見せてくれた仙台•米沢両藩を通して、奥羽鎮撫総督府宛に藩の助命嘆願書を提出しているが、
その総督府下参謀の長州藩士•世良修蔵は、嘆願書を受け取らず会津討伐を強く説き、
あまつさえ「奥羽皆敵」と書いた書状を、庄内討伐に出向いていた同下参謀である薩摩藩士•大山格之助に送ろうとした。
その書状を福島藩から密かに手に入れた仙台藩は、「世良がいては事態は悪くなるばかり」と 世良を捕縛、斬首してしまう。
このことがきっかけで、急遽 奥羽諸藩の同盟が結ばれ、会津•庄内とともに東北諸藩は新政府と戦わざるを得なくなった。
会津藩にとっては、援軍を得ておおいに勢いづいたかもしれないが、これで和平への道は断たれたのである。
「憎しみだけでは、事態は悪くなってゆくばかりです。
互いが許す心を持ち合わせておれば、ここまで戦禍は広がらなかったでしょう。
人は誰しも、過ちを犯すものです。
ですが、それを責めてもどうなるものでもありません。
まことに必要なのは、武力で打ち負かすことではなく、相手を許せる心の力なのではないでしょうか」
私は、耳を疑った。
※憐憫……かわいそうに思うこと。あわれむこと。
※戦禍……戦争による被害。
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