この空を羽ばたく鳥のように。
 



この戦は、わが会津藩にとって正義の戦いだ。

家中の者すべてが、疑うことなく強くそう信じ、戦っている。



わが会津藩は、上洛してからずっと朝廷と幕府に誠心誠意尽くしてきた。


公武合体を切に願い、財政を逼迫させながらも京の治安を守ることに勤め、帝の信頼だって厚かった。


それなのに薩長の策略により「朝敵」の汚名を着せられ、今まさに国を滅ぼされんとしている。



これはわが会津の存亡と誇りをかけた、道義たる戦いなのだ。




「喜代美……そんな気弱なことでどうするの?

悪いのは薩長のほうよ。 今だって、奥羽鎮撫なんて名ばかりで、東北全土を支配しようとしてるじゃない。

それなのに、そんな奴らに許してくれと頭を下げるの?」



あいつらは、幕府を完全に潰そうと戦を仕掛けてきたというのに。

戦いが続く中で、家中にはたくさん死傷者が出たのに。

身内を失って、悲しんでいる家族があふれているのに。



私の脳裏に、おさきちゃんやお八重さまの悲しみに暮れた顔が浮かぶ。


それなのに。



「喜代美は許せるの?たとえ大切な人を奪われても、許すっていうの……!?」



信じられないとばかりに言い募る私に、喜代美は深い思慮を潜めた目で見つめ返す。

しばらく考えてから、彼は小さくかぶりを振った。



「……許せないかもしれません。
ですが、許す努力はしたいと存じます」










※家中(かちゅう)……藩の家臣。藩士。

※公武合体(こうぶがったい)……朝廷と幕府が協力しあうこと。

※逼迫(ひっぱく)……追いつめられて余裕のない状態になること。

※道義(どうぎ)……人としてふみ行うべき正しい道。

※鎮撫(ちんぶ)……反乱・暴動などをしずめ、人心を安らかにすること。



< 253 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop