この空を羽ばたく鳥のように。
この戦は、わが会津藩にとって正義の戦いだ。
家中の者すべてが、疑うことなく強くそう信じ、戦っている。
わが会津藩は、上洛してからずっと朝廷と幕府に誠心誠意尽くしてきた。
公武合体を切に願い、財政を逼迫させながらも京の治安を守ることに勤め、帝の信頼だって厚かった。
それなのに薩長の策略により「朝敵」の汚名を着せられ、今まさに国を滅ぼされんとしている。
これはわが会津の存亡と誇りをかけた、道義たる戦いなのだ。
「喜代美……そんな気弱なことでどうするの?
悪いのは薩長のほうよ。 今だって、奥羽鎮撫なんて名ばかりで、東北全土を支配しようとしてるじゃない。
それなのに、そんな奴らに許してくれと頭を下げるの?」
あいつらは、幕府を完全に潰そうと戦を仕掛けてきたというのに。
戦いが続く中で、家中にはたくさん死傷者が出たのに。
身内を失って、悲しんでいる家族があふれているのに。
私の脳裏に、おさきちゃんやお八重さまの悲しみに暮れた顔が浮かぶ。
それなのに。
「喜代美は許せるの?たとえ大切な人を奪われても、許すっていうの……!?」
信じられないとばかりに言い募る私に、喜代美は深い思慮を潜めた目で見つめ返す。
しばらく考えてから、彼は小さくかぶりを振った。
「……許せないかもしれません。
ですが、許す努力はしたいと存じます」
※家中(かちゅう)……藩の家臣。藩士。
※公武合体(こうぶがったい)……朝廷と幕府が協力しあうこと。
※逼迫(ひっぱく)……追いつめられて余裕のない状態になること。
※道義(どうぎ)……人としてふみ行うべき正しい道。
※鎮撫(ちんぶ)……反乱・暴動などをしずめ、人心を安らかにすること。
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