この空を羽ばたく鳥のように。
戦況は、ますます悪化していた。
西の越後長岡藩では、一度奪われた城を奪還したものの、武器の補給の要としていた新潟港を占拠されたために再び長岡城を奪われ、藩士とその家族は八十里越を会津へと落ちのび、
東の二本松藩は、本隊が須賀川で足留めをくらい城へ戻れないところを攻められ、手薄になっていた城下は少年から老人まですべての男子が防戦にあたったが、壊滅的な打撃を受けて城が落ち、藩士たちは文字どおりこぞって城を枕に討死した。
同盟軍の中からは内部崩壊が起こり、ことごとく同盟を離脱し寝返る藩が各国境を攻めるせいで、
米沢藩や仙台藩も多方面に兵を出さねばならず、全面的に会津藩を援助することが難しくなっていた。
会津は徐々に、孤立しつつあった。
右近どのの婚儀が取り行われた翌日。
私はある決意を持って、屋敷の門をくぐっていた。
向かったのは、竹子さまからしばらく出入りを差し止めされていた、穴澤流宅稽古場。
喜代美も無事に戻り、心が安定し気持ちの整理をつけた私は、再び稽古場に足を踏み入れた。
「よろしくお頼み申し上げます!」
気合いを入れて、きりりと額に白鉢巻きを結び、声を張りあげ挨拶する私に、
稽古場で薙刀の稽古をしていた婦人達は、驚きの目を向ける。
「……まあまあ、何ですか。まるで道場破りにでも参じたような出で立ちですわね」
呆れたように奥から出て来られた竹子さまに、私は唇を引き締め片膝をつくと深々と頭を下げた。
「今一度、竹子さまに御指南いただきたく罷り出た次第にございます。
どうかもう一度、私を弟子の末端にお置きくださり、ご教授をお願いいたしたく存じます!」
頭を下げたまま、声高に願い出ると、竹子さまは眉を寄せて忍び笑いを漏らした。
「あなたを弟子と思ったことなぞ、一度もございませんわね」
「竹子さま!」
拒まれても引き下がらない意気込みで顔をあげると、
竹子さまは見下ろしながら、その凛々しい美貌に艶やかな笑みを浮かべた。
「さよりさん。あなたは弟子ではなく、わたくしの同志です。
国家存亡を憂い、主君がため、おのが命を賭けると誓う仲間なのですよ」
「竹子さま……」
思わぬ優しい言葉を受けて、拍子抜けしたように私は彼女を見つめた。
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