この空を羽ばたく鳥のように。
そんななか、八月十一日のことだった。
いつものように宅稽古場から戻った私は、自室から喜代美を見かけた。
だいぶ秋らしい風が吹くようになってきたが、
それでも障子を開け放した部屋で文机に向かい、喜代美は筆を取っている。
「喜代美、何してるの?」
声をかけながら縁側から部屋にお邪魔すると、筆を置いた喜代美は優しい笑顔を向けた。
「両兄上に手紙を認(したた)めておりました」
「ああ。喜代美が留守のあいだに手紙が届いていたものね」
「はい。ですが返事がなかなか出せず、遅れたままでおりました」
「ね、なんて書いたの?読んでもいい?」
訊くと、喜代美は少しはにかみながらも文机から退いてくれた。
彼のとなりに正座すると、まだ墨痕鮮やかなその筆蹟を眺めて、(相変わらず達筆ね) と感心する。
目を通すと、そこには喜代美らしい思いやりにあふれた言葉が書かれてあった。
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