この空を羽ばたく鳥のように。




 漠然とした不安を抱えながら中庭の先の喜代美の部屋を見つめて、彼の姿が現れるのを待つ。



 (なんだか息苦しい。のどが渇く)



 ほどなく喜代美が部屋に現れると、その姿を凝視して私も早苗さんも驚いた。


 喜代美の着衣は乱れに乱れ、紺の袴は土埃で真っ白だ。
 髷もゆるみ、鬢のあたりからいく筋もの髪がこぼれている。



 「……喜代美!」



 思わず叫んでいた。


 自分の汚れた衣服を脱ぐより先に、風呂敷に包んだ荷物を大事そうに文机に置いていた喜代美が、私の声に反応してこちらを振り向く。


 目が合って、喜代美が驚いた表情を見せた。


 けれどもすぐに替えの着物を運んできた母上に、こちらから隠すように障子をあわただしく閉められてしまう。


 私はすでに立ち上がっていた。



 「早苗さんごめんなさいね、ちょっと席をはずすわ!」



 そのただ事じゃない様子に、驚きで言葉も出ないのか。

 早苗さんは緊張した面持ちで、ただコクコクと頷くだけだった。










 ※(びん)……頭の左右側面の髪。

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