この空を羽ばたく鳥のように。




 なだめて少しは落ち着いたおたかを長屋へ下がらせると、私も自室へと戻る。
 床を整え、寝巻き姿で布団の上に座ると、なんだかいっきに疲れが出たような気分になった。



 (疲れた……。でも、全然眠れる気がしない)



 ………八郎さま。八郎さまが亡くなられたなんて、まだ信じられない。

 考えただけで、またじわりと目頭が熱くなる。



 (やだ……さっき喜代美の前で、さんざん泣いたのに)



 ごしごしと乱暴に涙を拭い、閉め切った障子の向こう側を見つめるように首をめぐらす。



 (喜代美……今、何してるんだろう)



 きっと同じように、眠れぬ夜を過ごしているに違いない。


 喜代美も部屋でひとり、八郎さまの死を悲しんでいるのかと思うと、せつなくて胸が痛む。


 そばに寄り添って、心を慰めてあげたい。
 喜代美の悲しみをすべて拭い去ってあげたい。


 けれど一緒にいれば、深い悲しみから喜代美にすがりつかずにはいられないだろうし、彼もまた、真っ先に私を気遣い、自分の悲しみを後回しにしてしまう。


 それに今 触れ合ったら、哀惜(あいせき)の念に(おぼ)れて感情に押し流されてしまいそうだ。

 私はきっと、がむしゃらに喜代美のぬくもりを求めてしまう……。










 ※哀惜(あいせき)……人の死などを悲しみ惜しむこと。

 ※がむしゃら……よく考えないで、勢いをもって物事を行うこと。


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