この空を羽ばたく鳥のように。




 おゆきちゃんから聞いた、おさきちゃんの弟君の話がよみがえる。
 家督を継ぐことより、命を擲ち兄君の仇を討つと決めた弟君。



 (まさか……喜代美も同じことを?)



 厳しく(ただ)す父上に向けて、喜代美は静かに首を振った。



 「いえ、そんな考えは毛頭ございませぬ。
 兄は戦場で散ったことを誉れと心得ておりますれば、仇討ちは不要と存じます」



 湧き上がる感情もなく、淡々と答える。
 父上は訝るように眉をひそめた。



 「ならば何ゆえ拒むのじゃ。そなたとさよりの睦まじさは、家人の誰もが認めるところ。
 さよりとて、この日を待ちわびていたはずじゃ。
 そなたはさよりが妻になることに、なんぞ不満でもあるのか」



 そう問われた喜代美の表情が、かすかに強ばる。
 一瞬だけちらりと私を見たけど、そのまなざしから彼の心情を読み取ることはできなかった。

 喜代美は静かに告げる。



 「……いえ。不満などありようはずもございませぬ。
 ですが私は、さより姉上をみどり姉上と同じく、実の姉のようにお慕いしておりましたので、とても自分の妻にとは考えられないのです」

 「……!」

 「喜代美さん!?」



 衝撃を受けて言葉を詰まらす私の代わりに、みどり姉さまが声をあげて非難する。

 心の臓を深く深く貫かれたようだった。


 喜代美が 嘘を ついた。










 ※毛頭(もうとう)……少しも。いささかも。


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