この空を羽ばたく鳥のように。
着替え終えたあと、母上に髷を結い直してもらいながら、今度は喜代美のほうから私に訊ねてくる。
「ところで姉上。姉上のお部屋にどなたかおられたようですが、こちらにいてよろしいのですか?」
「ああ、あれは あんたの……」
言いかけて、母上がジロリと睨んできたので、
あわててゴホンと咳払いして言い直す。
「あの方は、喜代美どののお客さまよ。戻られるのをずっと待っていらしたの」
すまして そう答える。
ちょいと棒読みだったかな。
はいはい。大切な跡取りどのを「あんた」なんて呼んではいけませんよね。
「私、の……お客、です、か?」
つっかえつっかえ言うのは、笑っているからでしょう?
肩が小刻みに震えているわよ。くそう。
「そうよ。誰かは、会えばわかるわ」
「……でしたら、髷を整えたらすぐ伺います。姉上、お客人にそうお伝え願えますか?」
「わかった」
横柄な言いように、また母上に睨まれそうな気がしたので、さっさと喜代美の部屋から逃げ出す。
待ちくたびれた早苗さんに、喜代美が着衣を乱して帰ってきた理由を話し、
(きちんと説明しとかないと、喜代美の実家に何を言うかわからないもの)
待つこと しばし。
一刻も経たないうちに喜代美はやってきた。
※横柄……偉そうな態度で、人を見くだすさま。
※一刻……一時の4分の1。
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