この空を羽ばたく鳥のように。
はじめ喜代美は、早苗さんを見て驚いていた。
「早苗どの……?いや、参ったな。ずいぶん大人びているから、最初はわかりませんでしたよ」
恋しい喜代美に声をかけられ、早苗さんは頬を可憐に染めて喜ぶ。
「八三郎さまこそ……!いいえ、今は喜代美さまでございましたね。とてもご立派になられて、私のほうが驚きましたわ」
言われて喜代美も照れているのか、ぽりぽりとうなじを掻く。
それから上座で正座し早苗さんと向かい合うと、嬉しそうに口を開いた。
「皆さまお変わりはございませんか?早苗どののご両親と兄君にも、とんとご無沙汰で申し訳なく思っていたところです」
「まあ……!私の家族のことまでお心をかけていただけるなんて、嬉しい限りですわ」
喜代美が心からの笑顔を見せると、早苗さんもその顔に満面の笑みを咲かせる。
ふたりが並ぶと、ほんと絵になるような美男美女だ。
「……私。お茶淹れてくるわ」
なんとなく見ていられなくて、そうつぶやくとそっと席を立つ。
台所でふたり分のお茶を淹れなおし、用意しておいた茶菓子を盆に乗せた。
部屋に戻ると、すっかり打ち解けたように談笑する仲睦まじいふたりの姿。
どうやら私はいなくてもよさそうだ。
湯呑みと茶菓子を置いて、さっさと部屋を退出することにした。
早苗さんが喜代美の実家のことを一生懸命話して聞かせるなか、お茶とお菓子を置いてすぐ席を立つ私を、喜代美の目が不思議そうに追ってくる。
「それでですね、喜代美さま!」
「あっ、はい」
早苗さんに声をかけられて、喜代美の視線はあっさり退いた。
私は構わず部屋を出て、襖を閉める。
ふう、とため息が漏れた。
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