この空を羽ばたく鳥のように。




 彼は津川家の家人を一目で魅了し、それはそれは大切に可愛がられて育てられた。

 彼も注がれる愛情に(こた)えて、家族に従順でよく孝行に尽くした。


 勉学や武道にもよく励み、まったく文句をつけようがない完璧な跡取り息子。


 その姿に手を叩いて喜ぶ両親を、私はどこか鼻白んだ顔で眺めていた。



 (――――おもしろくない)



 それが、この環境に対する私の気持ちだった。


 両親の愛情を一身に受ける彼。

 そして文句をつけられない完璧すぎる彼に、認めたくないけれど嫉妬の念を抱いているのか。


 ともかく私は、彼に傾倒する両親に冷ややかな視線を向けながら、なるべく彼から一歩引いた距離で接していた。


 父上からも母上からも、叔父さまや姉さまや奉公人からも。
 こんなにも(いつく)しまれ愛情を注がれる彼は幸せだと思った。










 ※家人(かじん)……家の者。家族。

 ※従順(じゅうじゅん)……すなおで人に逆らわないこと。

 ※鼻白(はなじろ)む……興ざめた顔をする。

 ※傾倒(けいとう)……ある物事に心を引かれ、ひたすら熱中すること。


 .
< 3 / 566 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop