この空を羽ばたく鳥のように。




 当惑する私を(たしな)めるように、竹子さまの凛とした声が響く。



 「何をしているのです。最後まで礼をつくすことが大事なのですよ。早く位置に戻りなさい」

 「あ……はい」



 竹子さまは、ご自分が負けたことなど気にも留めない様子で、さっさと始めの位置に戻る。
 私もあわてて戻ると、交えた薙刀をおさめて頭を下げた。



 「ありがとうございました」



 稽古場の端に敷かれた筵に座り、防具をはずす。
 するとすぐに幾人かの婦人が取り囲み、私に称賛の声をかけた。



 「お見事でした!おふたりの動きに、思わず見入ってしまいましたわ!」

 「あの竹子さまを打ち負かす方がおられたなんて!」



 (―――ちがう)



 そんなまわりの声を、心の中で否定する。

 私が竹子さまを打ち負かしたんじゃない。
 竹子さまがあの攻めをかわせないはずがない。



 (もしやワザと避けなかった?)



 そう思ったとたん、私は荒々しく立ち上がり、まわりに群がる婦人達をどけて竹子さまのところへ歩み寄った。
 反対の端で防具を脱いでいた竹子さまの前で(ひざまず)く。



 「竹子さま。今の勝負、私は納得がいきません。どうかもう一度お願いいたします」



 そう願い出ると、まわりがどよめいた。
 けれど竹子さまは静かに首を振る。



 「それには及びません。わたくしは避けきることができませんでした。あなたは勝負に勝ったのです」

 「それはまことのことではございません。どうかもう一度……」

 「さよりさん」



 竹子さまは私に呼びかけると、真摯なまなざしで見つめた。










 ※(たしな)める……よくない言動に対して、おだやかに注意を与える。軽くしかる。


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