この空を羽ばたく鳥のように。




 「な……何よ。私になんか用でもあるのっ!?」



 沈黙と視線に耐えかねて、先に声を発したのは私のほう。

 知らず尖った口調になる。
 口も同じく尖ってしまう。

 それを見て、喜代美はますます目を細めた。



 「早苗どのが屋敷に参られたのは、姉上が招いて下さったからなのですね」



 表情と同じく、穏やかな声で訊ねてくる。

 私はうつむいて唸った。



 「う……、まあ」

 「よかった」



 何がよかったんだか、喜代美は安心したように笑う。



 「私はずっと、姉上に嫌われているとばかり思っておりました。
 つい先日も、姉上を泣かせてしまったばかりですし」


 「べっ別に!私っ、喜代美のこと、きっ嫌いじゃないわよ!」



 あの時の涙が恥ずかしくて、反射的につい言ってしまったけど、心の中じゃ「嘘だ」と、もうひとりの自分が打ち消している。


 嘘をついてはなりませぬ。これ即ち『什の掟』の一項目なり。


 喜代美が嬉しそうに、さらに目を細めて繰り返す。



 「よかった」

 「けど、臆病者は嫌いよ」



 付け足して言うと、一瞬 喜代美の目が丸くなり、次いで口から「ぷっ」と 吹き出す音。



 「は……っ!はは!姉上は正直者だ!」



 むっ!? と、眉をひそめるも、初めて声をたてて笑う喜代美を見て内心驚いてもいた。


 ひととおり笑いがおさまると、喜代美はまたいつもの笑みに戻る。



 「されど姉上は、先ほど着衣を乱して帰ってきた私に、ケガはないかと心配して声をかけて下さった」


 「ちがっ!あれは!また津川の家が愚弄されたかと思って!」


 「それに早苗どののことも、実家に帰らない私を気遣ってのことでしょう?姉上はお優しい方ですね」


 「なっっ……!!」



 やめて!あんたに『優しい』なんて言われたくないっ!!


 ぞわりと肌が粟立つ私に気にもとめず、喜代美は続ける。



 「おかげで 実家の様子もいろいろとうかがえました。

 兄達には日新館でお会いすることもあるのですが、長く話せる時間がなくて。

 ですから早苗どのを招いて下さり、とても感謝しています」


 「ふ…ん。よかったじゃない」


 「はい」



 にっこり笑う喜代美につられ、私も自然に口角があがってしまう。



 でも よかった。
 これで少しは寂しさが薄れることだろう。



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