この空を羽ばたく鳥のように。
泣いている私を静かに見つめていた喜代美が言った。
「……つらいなら、忘れてしまっていいのですよ」
思わぬ言葉に顔をあげると、喜代美は困ったような、それでいて優しいまなざしを向けていた。
「つらいなら、苦しいのなら。私のことは忘れてくれてかまいません」
耳を、疑った。
「私は高橋誠八の三男、八三郎。
最初からここに私はいなかった。養嗣子の話もなかった。
ただ はじめに戻るだけです」
「……そ、んな……」
「あなたはこの戦が終わったら、幼少から思い描いていたように、立派な婿を迎えて津川家を守り立ててください。お願いします」
「……っ!いやよ!いやよ、そんなの!!」
あまりの言葉に、喚いて喜代美の腕にしがみつく。
「いや!! 喜代美を忘れるなんてできない!!
あんたと過ごした日々を、なかったことになんてしたくない……っ!!」
――――なら、誰が教えてくれたというの?
この胸の痛みを、苦しみを。
たったひとりの人を 強く欲する思いを。
重ねる手の 愛しいぬくもりを。
そして ともに寄り添い、生きてゆく喜びを。
ぜんぶ。ぜんぶ。
「喜代美とじゃなきゃ感じられない……っ!!」
――――切なる思いを受け止めるように、
喜代美は 私を抱き寄せた。
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