この空を羽ばたく鳥のように。
 



両手を伸ばす。



その手で、愛しい喜代美の両頬を包む。



目を閉じて 祈った。










「……さより姉上?」



しばらくそうする私に、喜代美が不思議そうに呼びかける。


包む頬が、心なしか熱い。


閉じていた目を開けてそっと手を離すと、明るく彼に笑いかけた。



「私もまじないをかけたのよ」


「まじない……ですか?」


「ええ。喜代美と再び会えるまじないよ」





(そうよ―――私はあきらめない)





あきらめることは、希望を失うことだから。



たとえ ついてゆくことはできなくとも、いつもあなたを想ってる。





強気にふふっと笑ってみせると、喜代美も安心したように相好をくずした。





「ならば また会えますね」


「そうよ。きっと 会えるわ」

















それから喜代美が実家に挨拶をしてからお城へ参る旨を告げると、父上も目を細めて了承した。



「うむ。ご母堂にもそなたの勇姿、しっかりと見せてくるがよい」


「はい。ありがとうございます。それではお先に参ります」





喜代美はあらためて家人達を見渡し、心を込めた礼をするとくるりと背を向けた。





「―――喜代美」





ふと、父上が呼びとめる。



「はい」



振り向く喜代美に父上はおっしゃった。



「父も、これが最後とは思わぬ。
じゃが、その命の使い道は、己がここぞと思うべき時に使うがよい」


「父上……」


「手柄はあげずともよい。けして功を焦り、先走ってはならぬ。皆に遅れをとってもいかん。

そなたはわしらの自慢の息子じゃ。けして卑怯な振るまいにおよばぬと信じておる。

心の赴くまま、力の限りしっかりと戦ってまいれ。

これが父の餞(はなむけ)の言葉じゃ」



「……はい!」







深くお辞儀で返したあと、喜代美は完爾と笑った。





これから迎えるだろう初めての実戦に対する恐怖や気負い、憂いなど―――そんなものみじんも感じさせない笑顔だった。






そうして喜代美らしい笑顔を家人達の心に焼きつけて、彼は出かけていった。








遠退いてゆく喜代美の背中を見つめながら、すがる思いで祈る。





(喜代美……)





どうか、どうか。

きっと私のもとに戻ってきて。










※相好(そうごう)をくずす……にこやかな表情になる。

※莞爾(かんじ)……にっこり笑うさま。



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