この空を羽ばたく鳥のように。
数日後。ひそかに喜代美の実家と連絡をとり、すべての段取りを整えたうえで、
朝餉を済ませたあと、父上は喜代美を呼んだ。
「喜代美。あさって十五日は、日新館が休みだろう。
その日は本四之丁の実家に帰ってきなさい。
先方にはもう話を通してある。久しぶりに家族水入らずでゆっくりしてくるがよいぞ」
「は……?」
突然の話に、喜代美はポカンとする。
それを遠巻きに見ていた母上とみどり姉さまと私は、お互いの顔を見合わせて笑ってしまった。
してやったりだ。
それに気づいて、喜代美がめずらしく眉間にシワを寄せる。
どうやら仕組みを気づかれたらしい。
「いくら養子に出たといっても、それで親子の縁が切れたという訳ではない。
そなたはあちらのご両親にも元気な姿を見せる責任があるのじゃ。
これからは時どき実家に帰り、お母上を喜ばせてあげなさい。これは、わしからの命令じゃ」
父上がそう教え諭すと、喜代美は怪訝な表情で黙ったまま、
父上、母上、みどり姉さまと私に視線を移動させてから、両手をつかえて深々と平伏した。
「……承りましてございます。
父上、ありがとうございまする……」
そうお礼を述べてから、「それでは行って参ります」と 再度頭を下げて、日新館へ行くため喜代美は席を立つ。
私はとても満足していた。
初めて喜代美に勝てたような気分でいた。
自分の思うように事を運べた達成感で胸は高揚し、いつになく上機嫌になって。
だから喜代美を見送る時にも、めずらしく笑顔で声をかけてしまっていた。
「喜代美!よかったね!いってらっしゃい!!」
私の声に驚いて、振り向く喜代美の顔にはいつもの笑みはなく、なぜか色白の頬がほんのり赤く色づいている。
喜代美は私に軽く会釈を返すと、うなじを掻いて門を出た。
きっと久しぶりにご両親に会えるから、嬉しくて照れてるに違いない。
そう思ったら、にんまり顔がなかなかおさまらなかった。
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