この空を羽ばたく鳥のように。
 



外に出ると、喧騒がますます高まった。


避難するために往来を行き交う民達の怒声はもちろんのこと、ズズンと響く地鳴りのような砲音や、パラパラと豆を炒(い)るような小銃音も入り混じっている。





(敵が近い)





そう察するなか、玄関の前に皆は集まっていた。



母上とみどり姉さま。えつ子さまにお祖母さま。皆そろいの白たすきに白鉢巻きを結んでいた。

お城へあがることを意識してか、母上やえつ子さまはこの時のためにと黒の羽二重の紋付き羽織をはおっている。

緊張のためか、その面持ちはいずれも真剣そのもの。
けれどその中に男達の姿が見えない。



「源太は……」


「持てそうにない荷物を隠しに行ってるわ」



みどり姉さまが答えるのへ、私は首をかしげた。



「えつ子さまの家の者もでございますか?」



えつ子さまとお祖母さまがお越しになられた際、供の男をひとり連れてきていたはずだ。



その者の姿が見当たらずに訊ねると、えつ子さまはあきらめたように首を振った。



「情けないことですが、わたくしどもの下男も姿が見えないのです」


「え……!」



示し合わせたかどうかは不明だが、弥助と時を同じくして逃げ出したらしい。



「えつ子さま……本当に申し訳ございませんわ……」



母上が口惜しそうに詫びると、えつ子さまは憤りを見せることなく笑った。



「かまいません。この危急の時に逃げ出すような不忠者など、用はありませぬ」



そのきっぱりとした物言いに、えつ子さまの強さを感じる。



もう家僕に逃げられたって 嘆いたりしない。

これくらいのことで くじけたりしない。





源太が裏から姿を現した。



私達の顔を見渡すと源太は頷き、申し訳なさそうにするお祖母さまに優しく声をかけて彼女を背負う。

その背が濡れないよう簑と笠をかけ、私達にはそれぞれ荷物を手にするよう促した。



「よろしいですか皆さま。それでは参ります」



私達は持てるだけの荷物を背負うと強く頷いた。










※喧騒(けんそう)……物音・人声などがやかましいこと。

※羽二重(はぶたえ)……絹織物のひとつ。きめが細かくて、つやがある。



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