この空を羽ばたく鳥のように。
 



わが目を、疑った。





やっとたどり着いた城門が――――きっちりと閉ざされている。





(どうして……!? まだ半鐘が鳴って一時(2時間)も経っていないはずなのに……!)





目の前には、お城へ避難しようと集まってきた幾人もの民達が、行き場を失いひしめきあっていた。

城門の手前で、しきりと嘆願する声が聞こえてくる。



「お願いでございます!どうかこの御門を開けてくだされ!
我らはやっとのことでここまで参ったのです!なのになにゆえ……!」


「ならぬと申しておろう!敵はすぐそこまで迫っておる!
殿のご命令なくして、御門を開けること罷(まか)りならん!」



門兵の非情な言葉に、その場がいっそう騒然となる。



「そんなご無体な……!ならば我らはいったい どこへ参ればよろしいのでございましょうか」


「そんなことは、こちらの与り知るところではない!
他の城門を探すか、すみやかに郊外へ立ち退かれるがよろしかろう!」



あまりの言葉に眉を寄せる。





(そんな……!避難してきた者はみな、お年寄りや幼子を連れているというのに……!)





「半鐘が鳴ったらお城へ参れと仰せられたのは、そちらのほうではございませんか……!」


「気持ちは解らないでもないが、とにかく我らの一存では御門を開けられんのだ!

ここもまもなく戦場になる!命が惜しくば他をあたれよ!」





敵との戦闘を前に気持ちが昂(たかぶ)っているのか、どんなに懇願しても門兵達は殺気立っていて取りつく島もない。



どうにもならない行方を不安げに見守りながら、皆で立ち往生していると、となりに立つ源太が静かに言った。



「他をあたりましょう」


「源太、でも……せっかくたどり着いたのに」


「ここで待っていても御門は開かれますまい。それより他に入れるところを探しましょう。

敵は北から攻めてまいります。
西がダメでも、南の御門ならどこか開いているところもあろうかと存じます」



後ろを振り返り、母上やえつ子さまを見渡しながら言うその声は穏やかだが、源太の顔には汗と一緒にわずかな焦りが浮かんでいた。



今 頼りは源太しかいない。

私達は頷くと、踵を返す源太から離れないよう続いた。










※嘆願(たんがん)……事情を説明して熱心に願うこと。

※無体(むたい)……無法なこと。道理に合わないこと。

※与(あずか)り知(し)る……かかわりあいをもつ。関与する。関知する。

※一存(いちぞん)……自分一人だけの考え。

※懇願(こんがん)……心をこめて丁重にお願いすること。

※取りつく島もない……頼りにする手がかりがなく、どうすることもできない。



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