この空を羽ばたく鳥のように。




 「へえ、そう!それじゃあ弟君は今日ご実家に?」


 「そうなの!母上に土産をたんと持たされてね!
 あんまり多くて、供の源太が困っていたわ!」



 私はその時のことを思い出してケタケタ笑う。



 困り顔の喜代美は、見ていてほんと楽しかった。

 もっと困り顔の源太から、荷物を持ってやる優しさには呆れたけど。



 「でもよかったじゃない。弟君もこれで大手を振って帰れるのだから」



 おさきちゃんもそう言って笑う。



 おさきちゃんは私と同い年で、おますちゃんと同様 裁縫所で親しくなったお友達だ。



 彼女の住まいは郭外(かくがい)南側の花畑大通りの端にあり、私は喜代美を見送ったあと、おさきちゃんの屋敷へ遊びに来ていた。



 「でしょう!実家のことはこれでよし!あとは友人よねえ……」



 私は腕を組んで考え込む。



 喜代美は友人の話をほとんどしない。
 きっと親しい友人がいないのだろうと、私は思っている。



 「……あ、ねえ!おさきちゃんの弟君もたしか喜代美と同い年だったわよね?」




 おさきちゃんは、丸い目をぱちくりする。
 けれどすぐ苦笑して否定的に手を振った。



 「うちの雄治?ダメよお!雄治とはそりが合わないんじゃないかしら?」


 「なんで?同じ日新館に通っているんでしょう?」



 彼女のお父上は、家禄十八石三人扶持と小禄ながら、祐筆としてお殿さまのお側で働かれてるお方だ。

 班席も花色紐以上の上士だから、そのご子息ならば日新館で学んでいるはず。










 ※郭外(かくがい)……城下外堀の外側。

 ※班席……会津藩の武士階級は、上士(士中)、中士(寄合)、下士(足軽)に分かれており、
 上士・中士は羽織紐の色によって七階級、下士は半襟の色によって四階級に区分されていた。


 日新館の入学を許可されたのは、第一級~第四級(上士)の子弟まで。(第四級の羽織紐の色が花色だった。花色とはすみれ色のような薄紫色)

 第五級~第七級(中士)の子弟は南北に分かれた学館で学び、また下士の子弟は近所の寺子屋や私塾で学んだ。


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