この空を羽ばたく鳥のように。
 



「……皆さまのご決意は、よくわかりました」



腹を括ろうと決め、顔をあげて皆を見渡す。





父上。母上。みどり姉さま。
えつ子さまにお祖母さま。そして源太。





本当は、誰ひとりだって欠けてほしくない。

皆 無事に生き抜いていってほしい。





「……私は、喜代美に誓いました。喜代美が留守のあいだ、家族の身はこの私が守ると。

ですが先ほどのお言葉、とても胸に染み入りましてございます。

皆さまがお覚悟を固められたならば、まず若年の私が真っ先に皆さまの盾となります」


「それはなりません!」

「それはダメよ、さより!」



告げた覚悟を間髪入れずに、源太とみどり姉さまが同時に打ち消した。



「貴女さまは、津川家の未来を繋ぐお方。けして死んではなりません!
喜代美さまもそう望んでおられるはずです!」


「そうよ、さより!お前は生きなきゃダメ!絶対に!」


「源太。みどり姉さま。でも、私は……」


「ふたりの申すとおりじゃ。さより」



戸惑う私を諭すように、威厳を含めた声音で父上がおっしゃる。



「お前は死に急いではならぬ。お前と喜代美は、わが家を継ぐ大事な役目を担(にな)っておる。
何があっても生き延びよ。そして喜代美を待つのじゃ」


「ですが父上……喜代美は今、どこに……」



縋(すが)るようなまなざしを向けると、父上はそれを厳しい表情で受け止め首を振る。



「わからぬ。だが、信じるしかない。喜代美が生きてこの城へ戻って参ると」


「私もそう信じております。喜代美さまはきっと戻られます」



源太がすかさず言葉を添える。





私ももちろん信じてる。

けれど、優しすぎる喜代美の性分を考えると、嫌な予感が胸から拭いきれない。





そう――――喜代美は。

命の重みが分かるゆえに、あれほど優しいのだ。







「さよりさん」



ふいにえつ子さまに呼びかけられ、顔を向ける。

見上げるえつ子さまのお顔は、穏やかな感懐を映していた。



「皆、あなたと喜代美どのに未来を託しているのです。それはとても、ありがたいことです」



えつ子さまはもう一度、目元を袖で拭ってから言葉を続けた。



「ですからあなたは御身を厭(いと)い、けしてつまらぬことで命を落とさぬよう。わたくし達がお守りいたします」


「えつ子さま、いけません!そんなこと……!」


「さよりさん」



えつ子さまが私の手に優しく手を添える。



「どんな時も、あきらめないことです。さすれば希望は消えません」





――――希望。





私にとってのそれは、喜代美だ。



そしてそれはきっと、皆も同じなんだ。










※腹(はら)を括(くく)る……最悪の事態も考慮しながら覚悟を決める。

※性分(しょうぶん)……生まれつきの性質。たち。

※感懐(かんかい)……あることに接して心に抱く思い。



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