この空を羽ばたく鳥のように。
 




廊下橋門を抜けたあと、帯曲輪(おびくるわ)に沿って本丸へ案内されると、そこで父上と源太は別れた。



不安は残るけど仕方がない。
父上には父上のお勤めがあるのだから。



後ろ髪を引かれるような心持ちで同じように避難してきた人のあとに続き、畏れ多いと恐縮しながらも御錠口から御殿へ足を踏み入れる。

見事な造りの御殿の中は、その価値を損ないそうなほど避難してきた藩士の家族でごった返していた。



御殿に身を寄せたからといって、安心した面持ちを見せている者などひとりもいない。

絶え間なく続く激しい銃撃戦の音に、皆これからどうなるのかと不安に顔を曇らせている。



とりあえず身を落ち着ける場所を探そうと首をめぐらすと、誘導していた奥女中の指示で小書院へ通された。

小書院は広かったが、そこにもたくさんの藩士の家族達が避難して雑然としている。

空いている場所を見つけて荷物を置き、母上やお祖母さまを休ませると、やっと人心地がついた。



けれど腰を下ろしたのもつかの間、駆けつけた別の奥女中が大声で叫んでまわる声が耳に届く。



「皆さま、方々(ほうぼう)で手が足りておりませぬゆえ、どなたでもお手空(てす)きの方は、ご助力お願い致します!」



それを聞いて、私はみどり姉さまと顔を見合わせ頷いた。
ふたりして母上の前に向き直り、端座し手をつかえる。



「母上、私達は参ります。少しでも皆さまのお役に立ちたいのです」



母上は疲れを隠せてはいない面持ちではあったけど、しっかりと頷いた。



「先に参りなさい。私も落ち着いたら加わりますゆえ」


「はい!」


「では、わたくしも」



そうおっしゃって、えつ子さまも腰をあげる。



母上にお祖母さまを託してその場を離れた私達は、呼びかけていた奥女中の後に続いた。










※曲輪(くるわ)……城・とりでなどの周囲に巡らせた土塁や石垣などの囲い。また、その内側の地域。

※畏れ多い(おそれおおい)……身分の高い人や目上の人に対し、礼を失するようで申し訳ない。

※人心地(ひとごこち)……無事に生きているという気持ち。生きた心地。また、緊張が解けてほっとした気持ち。



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