この空を羽ばたく鳥のように。
奥女中についていった私達は他の婦女子の方々とともに広間に集められた。
すると私達の前に、奥女中のなかでも位が高いと思われるふたりの婦人が、白鉢巻きにたすき姿で毅然として現れ、その後ろからやはり白鉢巻きをつけ、凛とした気高さを纏った女人がお付きの女中を従えて現れた。
驚いて息を呑む。次いで皆がその場にあわてて平伏した。
私もまわりにならって座り込み、恐縮して畳に額をこすりつけるほど頭を下げる。
その御方が誰なのか、すぐに察して動悸が高鳴った。
(照姫さまだ……!)
照姫さまが お出ましになられた。
照姫さま。九代藩主・容保さまの義姉上さま。
照姫さまは、会津松平家の親戚にあたる上総飯野藩二万石の九代藩主・保科正丕(まさもと)さまの姫君であらせられたが、前藩主である八代・容敬(かたたか)さまのご養女として会津松平家に迎え入れられた。
同じく美濃高須藩三万石から養嗣子として会津松平家に迎えられた容保さまより三歳年上。なので義姉君さま。
御歳三十七歳となられていた照姫さまは、外の凄まじい銃撃戦の音に臆することなく、気品に満ちた面立ちで広間に集まる婦人達を見渡すと、落ち着いた声音を落とした。
「皆、面(おもて)を上げなさい」
静かに響く、穏やかなお声。
そのお言葉に、皆がおそるおそる顔を上げる。
平生なら絶対にお目見えすることも叶わない、雲の上の人。
いざ有事あらば薙刀を手に照姫さまのもとへ馳せ参じ、竹子さまとともにお守りする所存ではあったけれど、まさか姫さまご本人にお目通りできるとは思わなかった。
そのお守りするべき照姫さまが、今 目の前におられるというのに、竹子さまはどうして西へ向かってしまわれたのだろう。
西の方角へ駆けてゆく竹子さまの横顔が浮かぶ。
(竹子さま……)
竹子さまの思惑が掴めないまま、不安ばかりが押し寄せる私の耳朶に、照姫さまの毅然とした声が響いた。
※毅然(きぜん)……意志がしっかりしていて、物事に動じないさま。
※平生(へいぜい)……普通の毎日。ふだん。
※耳朶(じだ)……みみたぶ。また、みみ。
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