この空を羽ばたく鳥のように。
さまざまな思いが胸中を駆けめぐり、そのあとも動けずにいる私の目の前に、再び人夫が次の負傷者を連れてくる。
全身が血にまみれた兵士は、ぐったりしていて意識がない。
それを見てゾッとした。
後ろから一緒についてきた先ほどの医師が、私を見て邪魔だとばかりに苛立たしげに怒鳴る。
「おい、さっさと退いてくれ!そこにおったら患者が診れん!」
「あ、も、申し訳ありません」
叱られてあわてて立ち上がったが、力が入らずよろめいてしまう。
そんな私を、誰かが後ろから支えてくれた。
驚いて振り向くと、上品な着物を身に着(つ)けた、私と同じくらいの年の娘さんが身体を支えてくれている。
「あなた、いつまでもそこにいては、先生が治療できないわ。早くこちらへいらっしゃい」
きびきびとした声で促され、私は腕を引かれながらその場を離れた。
大書院から連れ出されると、彼女は腕を離して厳しい顔をこちらに向ける。
「あなたの心情は察するわ。けれど、そんな気持ちでいては何のお役にも立てないわよ」
「……!」
キッパリ断言されて、驚きで言葉を失う。
さらに彼女は冷ややかに言った。
「残念だけれど、これからも亡くなる方はどんどん増えるでしょう。あなたはそれを目の当たりにして、いちいち悲しみに暮れるつもり?
そんなことでは、あなた自身が参ってしまうわよ」
カチンときて思わず声を荒らげる。
「じゃああなたは、人の命が失われても、何も感じないっていうの!?」
噛みつくように反論すると、彼女は軽く眉をひそめた。
「馬鹿なことおっしゃらないで。何も感じないはずないでしょう。
ひとりふたりの話じゃないの。これから何十人、何百人と命を落とす者は出てくるわ。
わたくしはその中のほんのひとすくいでも助けたいからお役目に励むの。
あなたのように、ひとりの死を悲しむ暇があったら、わたくしはそのあいだにひとりでも多くの命をつなぎとめる」
「―――!」
言葉の端々に表れる彼女の決意を感じて黙りこむ。
彼女の言ってることは、正しい。
私だって、できるならそうしたい。
けれど命を落とした者達も、この国を守るために、お殿さまのために、この身を捧げて逝ったのだ。
その忠義に感謝を示して遺体を浄(きよ)め、手厚く供養するのが人道ではないのか。
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