この空を羽ばたく鳥のように。
まったくおむすびの形にならない黒米に悪戦苦闘するも、何人も携われば知恵の出る人がいるもので、手拭いで絞り固めると何とか形になることに気づいた。
これはいいということで、手拭いのある者はそれを使っておむすびを握った。
私達が握る黒米のおむすびは、城内で奮闘してくれている兵士達に届けるもの。貴重な白米は傷病者に当てられた。
主に武家の婦女子が防備にあたる兵に食事を運び、大書院や小書院に収容されている傷病者への食事は奥女中が担っていた。すべてを取り仕切っておられるのは照姫さまだ。
照姫さまもまた御自ら各場所を巡られ、細かなところまで指示を与えておられる。
恐れ多くも、なんとありがたいことだ。
形になった黒米のおむすびは、取り外した長持の蓋に並べられた。それに味噌や数の子などのささやかな副食を添えたものが兵士達の食事になる。埃(ほこり)などがかからないよう濡らして固く絞った風呂敷を掛け、これをふたりで両端を持って各守備場所へ運ぶ。少ない人数で大量に届けるための工夫だ。
おむすびを握る時に手を浸していた水盥に落ちた米や焦げた米、地面に落としてしまった米は捨てるどころではない。
水盥に溜まった米は後でお粥にして傷病者やお年寄り、子供に食べさせ、焦げた米や土で汚れた米など兵糧にならないものを女達がいただいた。
一粒だって無駄にはできない。それほど食糧は逼迫していた。
籠城当日は気が昂ぶっていて空腹感は感じなかったし、持参していた食糧もあったからよかったけど、それもすぐになくなり、日が経つにつれ私達はいつもお腹を空かせていた。
準備が整うと、分担作業で兵糧運搬役の婦人に任せるのだが、その人達がなかなか戻って来ない。それでみどり姉さまと私で食事を運びに行くことになった。
向かう先は三の丸。本丸からは一番遠い。
やっと慣れてきた城内を、辺りをうかがいつつなるべく早足で目的地まで向かう。
まわりは騒音だらけ。砲声、銃声、怒号がどこへ行っても聞こえてくる。
人とは不思議なもので、その中に五日もいれば騒音にも慣れ、多少の音には怯えなくなった。
そのかわりに怯えるようになったのは―――。
※長持(ながもち)……主に近世の日本で用いられた民具のひとつで、衣類や寝具の収納に使用された長方形の木箱。
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