この空を羽ばたく鳥のように。




コォ――ッ




ふいに鋭い鳴き声が耳に届き、思わず空を見上げる。

白い体躯を煌めかせた白鳥が一羽、天空を羽ばたいていた。



次に鳴き声とは別のヒューッと甲高い音が聞こえてくる。空から黒い物が飛んでくるのが見えた。


素早く辺りに目を走らせる。ちょうど後方に頑丈そうな蔵がある。



「あの蔵の陰へ!」



みどり姉さまとあわてて蔵の陰へ駆け込むと、長持の蓋を地面に置き、それを身体で覆うようにして身を伏せた。



伏せたか伏せないかの刹那、地を揺るがす衝撃と耳を聾する爆音が響く。
近くで砲弾が炸裂した。爆風で辺り一面に硝煙と土煙が舞う。たまらずゴホゴホと咳き込む。



「さより、大丈夫⁉︎」


「はい、おむすびは何とか食べられそうです」



土煙からおむすびを守るように身を伏せていた私は、風呂敷をめくりおむすびの無事を確かめたあと、煤(すす)けた顔をみどり姉さまに向けてにっこり笑った。



「そうじゃなくてねぇ……」



同じように煤だらけになったみどり姉さまは呆れ顔で何か言いたそうにしていたけど、それよりこの場を離れることが先決だと考えて私は立ち上がった。



「姉さま、急ぎましょう」



促すと、みどり姉さまは言い足りない不満をため息に変えて後に続いた。



敵の大砲は一度 角度や向きを決めると、しばらくはその方向にしか砲弾は飛んでこない。
だからそこから離れさえすれば、被害を避けることができる。

生きるため、わずかな日で学んだことのひとつだ。

私達は急いで蔵から離れた。





忌々しいこの砲弾は、お城の南東にある小田山から放たれるもの。



この五日のうちに起こった悪いこととは、何と言っても西軍の小田山占領にある。


小田山からお城までの距離はだいたい十八町(約2km)。直線にすると十三町(約1.5km)というところか。山頂や中腹からは城下が一望出来る。


敵は会津の地理に疎(うと)いだろうと侮って守備をおろそかにしていたのか、わが藩は軍略的に最重要な場所である小田山を敵に取られてしまった。それが二十五日のことだった。


軍事局はこの事態に小田山奪還を謀ったが取り返すことはできなかった。
最悪なことに、小田山の北麓にはわが藩の火薬庫(塩硝蔵)があった。


奥行き十二間、間口三間半ある火薬庫には、精製された火薬五百貫が蓄えられていた。


それを敵が来て奪ってゆくので、城へ運び込むことができない。
敵に奪われるよりはと、軍事局はしかたなくこれを爆破させることに決め、足軽二名を密かに送り、火薬庫内に火を投げ入れさせた。


これがさらなる悲劇を生む。


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