この空を羽ばたく鳥のように。
五百貫もの火薬の爆破は、物凄いものだった。
その爆発音は百雷万雷がいっきに落ちるように数里を超えて広く轟き、地は地震の如く大きく揺らいだ。
これによりお城へ入城した者も、四方の山谷に避難した者も、誰もが震駭し、そして天守が爆破され崩壊したものと感じてしまった。
お城が落城したと早合点して、絶望のあまり自害してしまう者もいた。この爆破が皆を動転させたのだ。
そしてさらに翌日の二十六日から、西軍による小田山の砲撃が始まった。
そこから撃ち放たれる砲弾は飛距離があり、本丸までゆうに届いた。
兵士達から耳にした話では、肥前藩で製造されたアームストロング砲というのを持ち込んでいて、それが威力を発揮しているらしい。
標的とされたのは天守。わが藩の誇るべき五層の白亜の天守は、今や穴だらけの悲愴な姿となっている。
見上げる度に口惜しい思いに駆られた。
コォ―――ッ
また、白鳥の鳴き声がする。
あらかた離れて着弾音が遠のいた場所まで来ると、あがった息を整えながらもう一度空を見上げた。
この砲弾が飛び交う空を、白鳥は悠々と羽ばたいている。
あの白鳥はなぜかお城の上空を離れない。飛び去ったかと思うとまた戻ってくる。
気がつくと、いつも天空にいる―――そんな感じだった。
「もしかして、危険を報らせてくれたのかしら」
みどり姉さまの声にそちらを振り向く。
みどり姉さまも空を見上げていた。
この五日のあいだにふっくらしていた頰が痩せこけ、髪は乱れて顔も着物も煤だらけの真っ黒。みどり姉さまの美しい顔立ちは痛ましいほど様変わりしていた。
当たり前だけど入城してからは一度も湯浴みをしていない。着の身着のままで入城したから着替えさえ持ってない。
身体は汗と垢にまみれて臭っていることだろう。もっとも他の刺激臭が強くて誰も気にもしないだろうけど。
鏡もないし確認したくもないけど、きっと私も同じ。皆だってそうだ。
連日の緊迫した空気と忙しさに疲れは隠しきれないけれど、それでも変わらぬ微笑みを浮かべてみどり姉さまはおっしゃった。
「不思議よね、あの鳥。お城の上空を飛んでるのに……なぜか弾に当たらないの。
家中の方がたの中には、あの白鳥は土津さまの化身じゃないかって噂もあるのよ」
「まさか」
突拍子もない発想に私は呆れた。
※震駭(しんがい)……恐れ驚いて震えあがること。
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