この空を羽ばたく鳥のように。
早合をつくっていると、今の戦争とは本当に銃や大砲の時代なのだと痛感する。
小田山を占拠されてから、砲弾の威力は嫌と言うほど味わった。
(だったら私達は、いったい何のために……)
これまで必死に剣術や薙刀に励んできたのか。
そして、武士としての誇りとは。
今では銃の扱いさえ覚えれば、たとえ身分卑しき者でも一目置かれるだろう。
そもそも戦争とは、相手をどれだけ倒せるかが重要なのだから。
異を唱える相手の口を武力で無理やりふさぎ、力ずくで自分の野望を達成させる。
そこには忠義も道義も存在しない。どんな卑怯な手を使っても、勝ってしまえばあとはどうにでもなるのだ。
西洋の火器にものを言わせる西軍どもは、この戦いに大義と誇りを掲げていると言えるだろうか。
本当に正義の戦いだと胸を張れるだろうか。
(いいえ、正義はこちらにある。たとえ負けても―――死んでも、誇りだけは失いたくない)
つくった早合を見つめながら、あらためて強く思った。
「あっ、またこぼれた。もう!うまくいかないわねえ」
向かい側から漏れた声に、物想いに耽(ふけ)っていた顔をあげる。
胸壁にするため、座敷の畳はすべて取り払われた板の間で、婦人達が車座になって作業している。その中で私の向かい側に座した板橋たつ子さまから発せられた声だった。
この作業には、奥で働くたつ子さまと高木時尾さまも参加されていた。
たつ子さまの手元を見つめると、ハトロンの中に火薬を入れようとしているが、どうしてもこぼれてしまうようだった。
たつ子さまが苦戦しているところへ、私はからかうように言う。
「あら、たつ子さまでも苦手なことがございますのね」
ふふっと笑うと、たつ子さまが軽く睨みつける。
「これは紙が柔らかいせいですわ。紙が悪いのよ」
子供みたいに口を尖らすしぐさに、車座で座るまわりの婦人達もクスクス笑う。
「火薬をのせる紙を厚いものにしたらいいわよ。折り目をつけて先を尖らすと細い口にも簡単に入るわ」
「こっちの細い竹筒を使えばいいわよ」
お八重さまやまわりの婦人達も助言するが、何を使ってもどうやら指がもたつくようだ。
「お針なら得意なのに……」
たつ子さまがおっしゃると、時尾さまが笑った。
「八重さんはお針が苦手なのに、砲術に関することなら手先が器用になるのよね」
「もう!時尾さんたらぁ」
言いながら、お八重さまと時尾さまは笑いあう。軽口をたたく私達の様子を見つめていた婦人達も少しずつおしゃべりが多くなり、まるで世間話をしながら和裁をしているように空気がなごんだ。
眉間にシワを寄せ奮闘するたつ子さまを眺めていると、おますちゃんを思い出す。
たつ子さまは何となくおますちゃんに似ている。
(おますちゃん……無事でいるといいけど……)
入城してから、おますちゃんを見かけたことはない。
彼女は身重だった。だからこそ、余計に心配だった。
(おますちゃんのことだ。きっと、きっとどこかで避難しているに違いない)
祈りながら、早合をつくる手を進めた。
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