この空を羽ばたく鳥のように。




 喜代美がふっと笑う。今度は自嘲めいたものだ。



 「姉上、私にも意地があったのですよ。
 養子となったからには、私の父母は津川の両親なのだと心に決めておりました。

 ……実家の両親を恨んでいた訳ではありません。ましてや捨てた訳でもない。

 ただ、武士は二君に仕えないものです。
 実家の母も、津川の両親に尽くせと強く仰せでした。

 だから私は、下手に里心がついて津川の家を(おろそ)かにするよりはと、
 実家に帰ることを自ら禁じ、会いに行かずとも いつも家族の幸せを祈ればよいのだと、

 ずっとそう己に言い聞かせてきたのです」


 「―――!! ごめん!! 私……っ!!」



 事の重大さに気づいて、思わず両手で口元を覆う。



 (―――私は!なんてことしたんだ!)



 私の勝手な思い込みや行動は、けして喜代美を喜ばせるものではなかった。


 むしろ喜代美が心に決めた決意を、自分勝手にねじ曲げる行為だったんだ!



 「ごめ……!私、余計なことして!! 私……っ」



 喜代美が怒っていたのはこのことだったんだ。

 だから さっき……!





 「違います。先ほど申しましたでしょう。
 礼を申すのは私のほうです、と」



 うつむいてうろたえる私の顔を横から覗き込みながら、喜代美は慰めるように優しく言葉をかける。



 「今日 実家に帰って、分かったことがあるのです」

 「分かったこと……?」

 「ええ。私を養子に出した本当の理由です」



 思わず喜代美の顔を見上げる。
 いつも通りの優しいまなざし。



 どうして喜代美は、いつもこんなふうに微笑んでいられるの………?










 ※自嘲(じちょう)……自分で自分を軽蔑し、あざけること。

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