この空を羽ばたく鳥のように。
翌五日の夕方。敵が遺棄した武器弾薬や食糧を鹵獲してきた佐川隊が、荷物をお城へ運んできた。
佐川隊長率いる一軍は、城下西側、飯寺方面から進軍してきた西軍を、秀長寺の裏手にある住吉河原周辺で川を挟み迎え撃った。
秀長寺の戦い(または材木町の戦い)と呼ばれるこの戦いは、佐川隊の大勝利となった。
城中の人々は久しぶりの勝利に歓声をあげた。
「佐川さまは たいそうご活躍されてますね」
「本当に。この調子でどんどん敵を追い払ってほしいわ」
夕方、大書院にいた私達は、佐川さまの活躍を聞いて胸がすく思いで喜びをあらわにした。
きっと昨日お会いした荒川さまも活躍されたに違いないと、心が明るくなる。
大書院から源太が立ち退いた後も、おさきちゃんや坂井さま、それに場所が空いてこちらに移られた山浦さまと優子さんなど、知り合いの多くいるこの場所に、
私は仕事を終えたあと、いつものように顔を出して今日見聞きしたことを話すのだった。
まだ動けない山浦さまを囲むようにして話していると、坂井さまがふて腐れたようにつぶやいた。
「……俺も早く戦に加わりたいな」
他の藩士達の活躍を聞いて、焦る気持ちが生じたのだろう。すると横にいたおさきちゃんが励ますように明るく言った。
「何言ってんの!源吾どのだってもうすぐ戦えるわよ!だいぶ食欲だって出てきたし、身体も動けるようになってきたじゃない!」
まだ起き上がることのできない山浦さまも目を細めて苦笑する。
「そうだぞ。俺なんかしばらく寝たきりだ」
ふたりに言われて肩をすくめる坂井さまを微笑ましく見つめる。
本当に。目覚めてからの坂井さまは目に見えるほどの早さで回復しつつあった。
まだ若いからだろうか。それともご自身も早く全快したいという強い気持ちをお持ちだからだろうか。
源太が躊躇した牛肉や、最近 頻繁に出されるようになった馬肉も抵抗なく口にし、まだ素早く動けないまでも体調はどんどん良くなっているようだ。
「戻られるとしたら、やはり西出丸ですか」
私が訊ねると、坂井さまはうなずく。
「はい。白虎士中隊は西出丸の防備についておりますから」
白虎士中一番•二番隊は、敵軍が国境を破り、なだれをうって会津盆地に侵入してくると、防衛のためそれぞれ城外で戦った。
その際の激戦の混乱で、士中一番隊は若干名、二番隊にいたっては半数もの隊士が戻ってこなかった。
二番隊が人数減少のため 隊としての機能を失ってしまったので、軍事局は城内に戻ってきた士中一番•二番隊に加え 新たに十五歳の子弟も編入させ、白虎士中合同隊としてひとつにまとめあげ、西出丸の防備にあたらせた。
その白虎士中合同隊を指揮する人物はーーーー士中二番隊の隊長であった日向内記さま。
日向さまはなぜか隊を引き連れず、単身でお城に戻られた。それも作戦会議に出席したあと戦の混乱のため隊に戻れず、やむを得ない事態だったという。
しかしこれからの会津藩を担わなくてはならない若き少年隊士達は、喜代美やおさきちゃんの弟君をはじめ半数以上が戻っておらず、隊士を置き去りにする形で城内に戻ってきた日向さまに責任があると、私は憤りを感じていた。
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