この空を羽ばたく鳥のように。




 喜代美はゆっくりと、その理由を語ってくれた。



 「私の父自身、お家お取り潰しを回避するために入った養子だったのです」

 「え……!?」



 喜代美の実家である高橋家は、跡継ぎの金吾さまがまだ幼いうちに、先代である藤八重雄さまが早くに病で亡くなってしまった。

 遺児となった金吾さまはまだ跡を継げる年齢ではなかったため、お取り潰しを免れるため、急遽(きゅうきょ)親戚の中から喜代美のお父上が養子に入ったのだという。

 ただし それには条件があった。

 それは先代の遺児である金吾さまを嫡男とし、成人したら次の家督を継がせること。

 自分はあくまでも繋ぎ役と分かっていて、喜代美のお父上はそれを承知で養子に入った。



 「……その後生まれたのが、次兄になる八郎兄と私です。
 父は最初から、己の子が家督を継げないことを承知していたのです。

 だから父は、たとえ他家であろうとも、家督の継げるところへ私を行かせたかったのかもしれません。それがせめてもの罪滅ぼしとのお考えだったのでしょうか。

 それと同時に、家が潰えることを懸念する津川の父上の心情に、父自身もひとかたならぬ思いがあったのではないでしょうか」


 「そうだったんだ……」



 喜代美のお父上にとって、津川家の内情はけして他人事とは思えなかったのだろう。



 喜代美が養子にきた背景にそんなことがあったなんて。



 「私が養子にきた意味は、ちゃんとあったのです。
 今 私は、父が辿った道を歩いている。
 父が示した道を、今度は己の意思で歩いてゆくのです。

 私はそんな父をとても誇りに思いました。
 養子以来ずっとかかっていた心の(もや)も晴れました。

 己の信念を通して(かたく)なに帰省を拒んでいたならば、きっと私はこの事実を知る機会はなかったでしょう。
 さより姉上のおかげです」


 「喜代美……!」



 そんなふうに言われて、嬉しくないはずがない。

 嬉しくて、泣きそうだ。




 (……喜代美はこの話を聞かせたくて、私を呼んでくれたの?)



 よかった。実家へ帰ることは喜代美の本意ではなかったけれど、

 でもそのかわり、大切なことを知ることができた。



 私のしたことは、けして悪い事ばかりではなかったんだ。

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