この空を羽ばたく鳥のように。




 まぶたを閉じる。
 膝の上に乗せた拳を、ギュッと握りしめる。



 (――――喜代美はずるい)



 私の心なんか、とっくに見抜いてるくせに。
 それをわざと言わせようとしてる。



 「………臆病者でも いいじゃない」



 つぶやいて、ゆっくりまぶたを開く。


 彼をまっすぐ見据えて。いや、睨んでいるかも。
 そんで勇ましく言ってやった。



 「どんなに情けなくても、喜代美は喜代美でしょう!?
 この家にはあんたが必要!私だって必要としてる!それでいいじゃない!
 誰にどう思われようが、それでいいじゃない!!
 あんたは堂々と津川の跡継ぎだって顔をしてればいいのよ!!」



 ――――視線が絡んだ、その先の。

 月明かりに照らされた喜代美の美しく澄んだ瞳が、柔らかく細まってゆく。


 そしてその瞳を潤ませて、安心したように微笑む。



 ドキッ、と した。



 いつのまにか膝の上で握っていた拳が、喜代美の手に優しく包まれていたから。



 「ありがとう……ございます……」



 お礼を言って、喜代美は口元を緩めた。



 「誰にどう思われようが、それでいい……か。
 はは……本当に姉上は勇ましい……!」



 私のやけくその啖呵(たんか)に、こらえきれず声をたてて笑っていた。

 苦しそうに、嬉しそうに笑っていた。
 少年らしく笑っていた。

 けれどそのあいだも、喜代美の手はずっと私の拳を包んだまま離すことはなかった。


 笑いがおさまると、喜代美の顔にすっきりとしたいつもの微笑みが戻る。


 当たり前だと思っていたその笑顔を、
 こんなに待ち侘びたことはなかった。


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