この空を羽ばたく鳥のように。




 次の日は、寝不足だった。
 昨夜はいろいろありすぎて、頭がもういっぱいいっぱいだ。


 あれからすぐ喜代美は、私に羽織を着せたまま自室に戻るよう促した。
 言われるまま私は別れて部屋に入り、羽織を着たまま床にもぐった。


 喜代美に握られた手が熱い。
 羽織から香る、喜代美の匂いにも胸がざわつく。


 ――――この羽織をかけられたとき。

 一瞬 抱きしめられたのかと思った。


 喜代美の優しさがすごく胸に沁みた。
 涙が出そうになった。



 (……喜代美はなぜ、私を無視しないんだろう)



 私なんかがどう思おうが、喜代美にとってなんの差し障りもないことじゃないか。



 『私を必要としてくれますか?』



 その問いかけは、きっと『自分がこの家を継ぐことを許してくれますか?』という意味。


 バカ喜代美。私に訊いてどうなるっていうんだ?


 私から奪ったものだから、許してほしいと思った?
 私にも納得してもらったうえで、家督を継ぎたいと考えていた?


 喜代美が跡を継ぐか否かを決めるのに、誰も私の意見など聞くものか。

 だいいち、私にそんな権限はない。
 そもそも女の私には相続権などないのだ。

 私は抗うことも許されない。
 跡継ぎ候補にも含まれない、ただの負け犬だ。


 そんな私に、喜代美があえてそう訊ねるのは、ひとえに彼が優しいから。



 (……喜代美に委ねよう)



 喜代美は家督を継いだあとも、絶対 姉の私をないがしろにはしない。
 きっとそれは、いつか彼が妻を迎えても変わることはないだろう。

 この家だって、きっとしっかり守ってくれる。


 そう思えば、私は幸運に違いない。


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