この空を羽ばたく鳥のように。




 叫び声に驚いたのは喜代美(たぶん蛇も)。
 一度 門の中へ消した身体をあわてて現して、私と蛇を交互に見つめる。

 私は隣家の塀に寄りかかって肩で大息をつき、蛇はからだの波うつ速度を早めて、お城西出丸の堀へと姿を消した。

 残された私達は、顔を見合わせる。
 おたかは訳がわからずに私達の顔を交互に見る。

 喜代美の整った顔が、みるみる歪んで―――。



 「……ぷっ!はは……っ!!」

 「 ‼︎ 」



 また!ゆうべに続き、また笑われた!!


 うつむき肩をすくめながら、こらえきれずに笑い続ける喜代美は、ポカンとする私とおたかに背を向け、再度門の中へ姿を消す。



 「……こら喜代美!待ちなさい!」



 今度こそあとを追うと、言葉の通り彼は玄関の前で待っていてまだ笑っていた。



 「し……知りませんでした!
 さより姉上は、蛇が苦手だったのですね!」



 笑い続けたせいか、苦しそうに言う。



 (くそう。弱みを握られた)



 「……そうよ!苦手よ!! 悪い!?」

 「いいえ、可愛らしいです」

 「なっ!!」



 私は絶句。



 (何!? 何なの!? こいつ、ゆうべからおかしいよ!?)



 「……あんた、一体どうしちゃったの!?
 ゆうべからやたら声をあげて笑うし、さっきだって……」

 「ああ……」



 喜代美はようやく笑いがおさまってきたのか、最後にゴホンと咳払いして首をかしげると、照れくさそうに言う。



 「それはつまり……。そろそろ臆病者はやめようと思いまして」

 「はあ!? 何それ!! やめようと思ってやめられるもんなの!?」

 「さあ……わかりません」



 そう言って、喜代美はいつもの微笑を浮かべる。
 そのほほえみを見せられると、私は何も言えなくなってしまう。


 やっぱり彼のほうが、一枚上手なのだ。



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