この空を羽ばたく鳥のように。
――――えっ。
バッと、勢いよく後ろを振り返る。けれども声の主はどこにもいない。
でも確かに聞こえた。
忘れもしない、あの声は――――。
急いで立ち上がって、人だかりから抜け出す。
声の主を探してあわてて見渡す。
ちょうど朝日が昇り始めて、東の空から全体を朝焼けに染めてゆく。
明るさを得て、私は波打ち際を駆け出した。
不思議だった。
気がつけば いつの間にか辺りは静寂に満ちている。
騒音が消え、まわりの人達も時が止まったかのように動かない。
私と、そしてずっと先を歩く人影だけが、時も止めずに動いてる。
だからすぐに見つけられた。
駆ける足を早め、声の限りに呼びかける。
「――――待って!待って、喜代美‼︎ 」
私の声に足を止め、露草色の着物を着た少年がゆっくりと振り返る。
それまでにひと息に距離を詰めていた私は、両手を伸ばしてその身体に体当たりで抱きついた。
『………!』
どん、と 衝撃があった。
感触がある。以前と変わらない。愛しいぬくもり。
嬉しさに、涙があふれだす。
「会いたかった……。ずっと、会いたかったよ……!喜代美………‼︎ 」
胸に埋めた顔をあげると、朱色の光に照らし出された、驚きに目を見開く喜代美が瞳に映る。
ああ、喜代美だ。あの時から変わらない喜代美だ。
会えた喜びに、思いきりぎゅうっと抱きしめる。
喜代美も、自身の震える腕をゆっくり私の背中へまわした。
『ああ……土津さまが、お慈悲を下された……』
噛みしめるようにつぶやいて、腕に力を込める。
『……ええ、私も。私もお会いしたかったです。さより姉上……!』
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