この空を羽ばたく鳥のように。
――――コオ――ォッ。
耳に届いたその声に、深く沈んでいた意識が呼び起こされる。まぶたを開け、耳を澄ませた。
コオ――ォッ。
その声に急かされるように、うまく動かない身体をうつぶせにしてから上体を起こした。耳をそばだてて、外の声に集中する。
コオ――ォッ。
聞こえる。聞こえる。この鳴き声は。
――――――私が待ち望んだ、愛しい声。
居ても立ってもいられなかった。立ち上がれなくて、四つん這いになって床から抜け出す。
縁側に出る戸に取り付き、身体が通れるだけの幅を何とか開けて外を見た。
刺すような光り。雪の白さに陽射しが反射して目が眩む。ようやく目が慣れると、まず空を見上げた。
青く澄んだ空に雪のように真っ白な白鳥が数羽、南の方角へ飛んでゆく。それを見て思わず叫んだ。
「 ―――まって!お願い待って!」
戸の隙間から飛び出す。最初は足に力が入らなくて、すぐに縁側から雪の中へ崩れ落ちた。それでも力を振りしぼって立ち上がる。
寝巻き姿に裸足のまま、必死で白鳥を追った。
足の感覚がほとんどない。陽射しに溶けてきた水雪に足を取られ、身体を支えきれず何度も倒れた。
雪にまみれながら空を見上げると、いつの間にか白鳥は消えている。
―――また、置いていかれた。
絶望の涙が浮かんだ。
(待って。行ってしまわないで)
見失ってもあきらめきれず、涙を拭って白鳥が飛んでいった方向へ足を踏み出す。
どこをどう歩いたのか分からない。
しばらく彷徨い、気がつけば開けた場所に出ていた。
一面に光る雪景色。
まわりの山も樹木も、白一色に輝く。
あまりにも強い光に目をこすって雪原を見据えた。
空の青と雪の白。照り返しがまぶしい真っ白な雪原の真ん中に、そこだけ青空が落ちてきたようにぽつりと青色が浮かんでいる。
細めた目をこらして、それが何なのか確認しようと近づいた。
けれど柔らかくなった雪に足を取られてすぐ転んだ。
すっかり雪に濡れて身体が重い。
冷たくなった足も手も、うまく動いてくれない。
涙のせいか光のせいか、視界も白くぼやけてよく見えない。
すると不思議なことに青色のほうから近づいてきた。
距離が近くなると、青色の正体は誰がが着ている着物の色だと分かった。
それに気づいて、もう一度 立ち上がる。
その人に、少しでも近づきたくて。
届きたくて、触れたくて、手を伸ばす。
また雪に足を取られ、転びそうになった。
「あっ」と 声が漏れたとき、伸ばした手を掴まれ、強い力で引き寄せられる。
その時、視界のすべてが鮮やかな青色―――いいえ、露草色に覆われた。
私の身体はしっかりと相手の胸の中に抱き止められていた。
喜びに涙があふれ、力の限りに抱きしめ返す。
迎えに来てくれた。
ずっと、ずっと。この時を待っていた。
今度こそ、もう離さないで。
「喜代美………!」
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