この空を羽ばたく鳥のように。



 うろたえる私に、喜代美は顔を背けて口元を手の甲で拭うようにして鼻をすする。


 普段何があっても穏やかに構えてる喜代美が、怒りをこらえて悲しんでいる……の?


 気まずさに重たい空気がのしかかる。
 背を向けたまま、喜代美は微動だにしない。



 (―――まさか。また……?)


 「き……喜代美、どうしたの?もしかして朋輩達に何かされた……?」



 喜代美は応えない。



 「ねえ……お願いだから話してよ。私達、家族でしょう?
 苦しんでいるなら力になりたいよ……?」



 自分の気持ちを口にしてみて、初めて気づく。
 以前の私なら、こんなこと思いもしなかった。
 いつのまにか私は、喜代美を家族の一員だと認めていたんだ。

 そんな自分に気づいて戸惑いつつも、そっと彼に近づいて(そで)を引いてみる。


 ゆっくり振り向く彼の顔には、悲しげな微笑。


 胸が……詰まる。



 「……申し訳ありません……。また情けない姿を見せてしまいました……」



 うまく取り(つくろ)う言葉が浮かばないらしく、喜代美は困ってうなじを掻く。



 「喜代美……ねえ、あの包み何?何が入っているの?」



 訊ねると、ピクリと喜代美の頬がこわばる。

 さっきから気になってた。
 喜代美が大事そうに抱えていたあの包み。
 そっと地面に置かれた、あれが彼の悲しむ理由なのか。


 立ち尽くしたままの喜代美から離れると、私は包みの前で膝を折り、ほどきかけの風呂敷を開こうと手を伸ばした。

 と、その手を掴まれ、止められる。

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