この空を羽ばたく鳥のように。




 となりを見ると、同じように屈み込んだ悲しげな瞳の喜代美と目が合う。

 けれどその瞳とは違い、いつもの穏やかな声で彼は言った。



 「……あなたは、見ないほうがいい」

 「なんで?私が見ちゃいけない?」



 ムッとして答える。見るなと言われれば、見たくなるのが人の常だ。



 「見れば、あなたが傷つくだけです」

 「……!?」



 何だろう。いったい。
 喜代美の目からそれを探ろうとするけど、判るわけがない。
 でもまぎれもなくこの中には、見たら後悔するものが入っているんだろう。


 そのために喜代美は傷ついてる。
 そして、同じ思いを私にさせたくないと気遣う彼の優しさを感じる。




 「……私は平気よ!だってこれが原因なんでしょ?
 喜代美がつらい思いしてるのに、見て見ぬふりなんてできないもの!ほっとけないもの!」



 内心、何が入っているんだとびびってはいたが、
 その気持ちを吹き飛ばす勢いできっぱりと言い切った。


 喜代美は私を見つめて、優しく目を細める。
 泣きそうな顔に見えなくもない。



 「あなたは気丈な方だ……」



 そうつぶやくと私の手を離し、喜代美は自らの手で風呂敷の包みを解いた。

 それをじっと見つめる。

 最初はなんだかよく分からなかった。
 汚れてしまった黒い毛皮かと思った。
 けどそれが、黒い猫の死骸だとわかった途端「ぎぇっ!」と悲鳴をあげて立ち上がる。



 (なんで……!? なんでこんなもの持ってくんの!?)



 すっかり動転して両手で口元を(おお)う私を見上げて、喜代美は困った顔で弱々しく笑う。



 「だから、申しましたでしょう?」

 「申しましたでしょう、って……!なんであんた、こんなの持ってきたのよ!?」



 「今すぐどこかへ()ててきなさいよ!」と言いたいところをぐっとこらえたのは、喜代美がひどくつらそうな顔をしたからだ。



 「こうなったのは、すべて私のせいなのです。
 私が仲間に、猫の祟りが怖いなどと申したために……」


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