この空を羽ばたく鳥のように。




 ため息をひとつつくと、再び喜代美のとなりに座り込んだ。



 「……埋めてあげよう。手伝うよ、私も」



 喜代美は潤んだ瞳を大きく(またた)いて、私を見つめる。



 「……気持ち悪くはございませんか?」

 「しかたないじゃないの、喜代美がそうしたいんでしょう。
 何か土を掘れるものを持ってこなくちゃね。どこに埋めてあげようか。湯川のそばにする?
 ……あれ、喜代美。それは何?」



 猫の死骸の腹の下に、もうひとつ小さな風呂敷包みが見える。
 微かに動いたように見えたのは、気のせいだろうか?



 「……それは、子猫の亡骸です。この猫は母猫だったのですよ」

 「母猫……」

 「子が産まれたことを知って、母猫に時どき弁当の残りを与えていたのですが……。
 乳を与えてくれるはずの母親が死んでしまい、子も腹を空かせて飢え死にしたのでしょう。
 私が気づいた時には……すべて遅すぎました。
 せめて一緒に埋めてやろうと思いまして」

 「き……喜代美!」



 うなだれて話す喜代美の言葉を遮り、その肩をぐいぐい揺する。

 私の視線は小さな風呂敷包みに釘づけだった。
 微かな動きを、私は見逃さなかった。



 「……ほら!また!やっぱりあの包み動いてる!
 喜代美!まだ生きてるよ!子猫生きてる!!」

 「えっ……!?」



 喜代美は驚くと、あわてて風呂敷包みを開ける。
 横たわる数匹の黒い子猫達の死骸の中で、たった一匹だけ、弱々しくだけれどたしかにその小さな身体を動かしていた。



 「……生きてる……!!」



 喜代美が子猫をすくいあげる。
 その表情が喜びで見る間に輝いた。



 「かして?」



 私は帯に挟んだ手拭いを引っ張り出すと、それを広げて子猫を乗せてもらう。

 両の手のひらにすっぽりおさまるほどの、小さなこげ茶色の子猫だった。
 よく見ると、黒い虎縞模様だ。


 少し力を入れて手拭いで身体をこするように刺激を与えると、それに応えるように子猫は力強く「ニャアア」と鳴いた。

 小さな小さな、それでもたくましい命の声だった。










 ※湯川(ゆかわ)……会津布引山を水源とし、湯本村を通過し城下の南から西側を囲むように迂回し、最終的には猪苗代湖を水源とする日橋川に合流する。湯本村の温泉がこの川に流入するためこの名がついた。

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