この空を羽ばたく鳥のように。
けれど喜代美はすぐ目を伏せてうつむいた。
「私はそう思いますが……そうですよね。魚と同じ名なんて……。
馬鹿だな、私は。よく考えれば分かることなのに、思慮が足りない」
ぽつりとこぼすと、自嘲の笑みを漏らす。
胸がズキンと痛んだ。落ち込む姿なんて見たくないのに。
謝りたいのに、あまのじゃくな性格が邪魔をして言葉が出てこない。
押し黙ったまま同じように目を伏せる私に、喜代美は弁明するように言葉を続けた。
「ですが、魚の腹が黒いのは、生きていく上で自然と身についたものなのです。
そんな例えになぞらわれたなんて、魚も迷惑に思っていることでしょう。
父上もそうお考えだったのではないでしょうか。
見たままの姿で判断するのではなく、本質の美しさを知ることが大事なのだと。そう願って、あえて同じ名前をつけたのではありませんか?
そうでなければ、大切な自分の娘にその名を付けるはずがありません」
父上の考えを推量して、優しい声音で私を慰める。
「それに響きにも女人らしい柔らかさがあるし、姉上にとても似合っていると思います」
「もういいわよ。そんな無理して慰めてくれなくても」
まるで失態を補おうとするかのように一生懸命言うもんだから、ついため息が出てしまう。
「いいえ、そうではありません。私はそう思います。本当に」
喜代美は語尾を強めて私を振り向く。
「あなたによく似合ってる。私は好きです」
まっすぐ見つめられて、真剣な表情で断言するから。
名前のことを指しているのだと十分わかっているはずなのに、胸が熱くなる。
「あ……」
まるで想いを告げるかのような発言に自分でも恥ずかしくなったのか、喜代美は真っ赤になってあわてて顔をそむける。けれどそれでもなお言い募った。
「お、お疑いになられるのでしたら、じかにごらんになればよろしいじゃないですか。
見ればきっと父上のお心がわかるはずです。姉上も得心なされますよ」
「見に行く……って、どうやって?海まで行くの?」
「はい」
こちらに顔を向ける喜代美は、頬を染めながらも真摯な表情で頷く。
「無理よ、私なんかが行けるはずないじゃない」
呆れたように返すと、喜代美はきっぱりと言いきった。
「いつか、私が連れて行きます」
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