この空を羽ばたく鳥のように。
―――ああ。なるほどね。そういうことか。
つい冷ややかに目を細める。
けれどもすぐ、私も似合わない笑顔を作ってみせた。
「あら、あなた。喜代美のお知り合い?」
すると彼女ははにかんだ。
うっすら染まる桃色の頬が、愛らしさをいっそう引き立てる。
「まあ……そうでしたわね!今は喜代美さまとおっしゃるんですよね!
はい、私の家は喜代美さまのお実家ととなり同士でございまして、私は幼い頃 喜代美さまによく遊んでいただきました」
ほほう。幼なじみという訳ですな?
それはそれは結構なことで。
「けれど喜代美さまがご養子に出られてからは、お実家にもまるで帰っておられないご様子。
もしや体調でもお崩しになって、なかなかご実家にお戻りになられないのではと、それだけがずっと気がかりでして……」
それで喜代美の姿見たさにこの裁縫所まで通うことにして、私に探りを入れてきた、と。
(……ふーん)
「心配には及ばないわ。喜代美は全っ然!元気だから。
きっと実家に戻らないのも、津川の両親をおもんぱかってのことでしょう。
両親は何度も実家行きを勧めているのよ。なのにあの子はなかなか首を縦に振らないの」
余裕たっぷりの笑みを見せつけてやる。
けれど腹では、別の感情が沸きあがっていた。
彼女には悟られたくない。せめてもの年上の威厳だ。
「そうでしたか……お元気ならそれで安心いたしました。
あの、さよりさま。今度 お宅へ遊びに参ってもよろしゅうございますか?」
早苗さんは心底ホッとした様子を見せたあと、媚びるような上目使いでそう申し出る。
それにも私は余裕の笑みで答えた。
「ええ どうぞ。いつでもいらっしゃい。きっと喜代美も喜ぶわあ」
『喜代美も喜ぶ』と聞いて、彼女は今までの中で一番うれしそうな笑顔になった。
※慮る……周囲の状況に目を向けて、深く考える。
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